花はどこへいった
その夜は、満月だったが、
どこにもたどり着けそうにない夜だった。
それでも、自分の弱さも知らないままに旅立とうとしていた。
『彼は結婚している人。』
そう言い聞かせて、
人を好きになったことを誇らしく思うことにした。
「また、いつか、どこかで会いましょう。」
誰も気付かないけれど、この胸は泣いている。
月光のグラデーションを浮かべたダム湖に立っていた。
風景を残して置きたかった。
『女の人は時々強く抱きしめられなければだめだ。』と、そんなことを考えながら、体をまかせた。
彼は長い指で私の髪に触れた。
人は肌で感じて、変わっていく。