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Posted by 滋賀咲くブログ at

温暖化時計

2009年11月02日

「どこへ連れて行くの。」と、少女が訊ねた。
「ここよりずっといい所だ。」と、ぼくは答えた。

アマツバメのさえずりが響き渡る広場を中心に村人は暮らしていた。
広場から見渡せるエリアが一つの共同体だった。
教会のミサが行われる時間に、村人は広場に集められ、リストにもとづいて整列させられた。
リストアップされた者は、船に乗せられる。
行き先は、温暖化の呪縛から解放され、自由な未来を創造する新しい町『ノバフタ』だった。

憩いの場所に、夕暮れを告げる鐘が鳴り響く代わりに、銃声が轟いた。
そこは、労働収容所だった。
行進する列の中で、村人は振り返り、少女は祈りの歌を唄った。

入江に灯されたまばらな明かり。
アマツバメが生み出すエネルギーが失われたのだ。
やせた月が、制服の男たちを照らし出している。

マラリアで、村は制服の男たちによって焼き払われている。
少女は、感情を歌に乗せることができた。
少女は、情景を込めて唄っているだけではなかった。
少女は、やせた月に地球照を見ていた。
少女の父親は、今も彼女のそばにいて、光の手を差し伸べている。
その時、彼は村のリーダとして、すでに兵士に連行されていた。
ぼくは、彼を助けようとしたが、「来るな。」と手を振った。

音楽好きだった父親は、少女がジュリアードで学ぶことを願っていた。
「お父さんが、好きだった。」という歌に、ぼくは梵声を聞いていた。
少女にも、聞こえていた。
だから、少女は、「お父さんも聞いてくれたと思う。」と囁いた。
エコーだ。



Posted by グリーンワーク at 05:29 Comments( 0 )