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Posted by 滋賀咲くブログ at

花はどこへいった

2010年06月13日

PⅡに捧ぐ。
ピアノの伴奏に合せてテルミンがサンサースの『白鳥』を演奏している。

2年前のことだけど、もうずいぶん前のことのように思える。
彼は、命には限りがあることを知っていたから、逆算で考えていた。
未来は、覚悟が出来ているかで決まる。

エネルギー開発のダム建設は、捕虜を使って始められた。
多くの殉死者を出した。

今夜、殉死した40人のパートがある合唱がダムサイトに響いた。
美しいハーモニーのインノミネの合唱の後、彼女はピアノに向かった。
野奏曲。
PⅡへの鎮魂歌だった。

ダム湖に風が吹き抜けた。
「テルミンが聞こえたかい?」
彼女は、白鳥の湖の国からやって来た。
「いつも隣で、笑っていたかった。」
君に会うまでは、マリーアを知らなかった。

マリア像がダム湖に沈められた。
「翼を休めて下さい。」
白鳥は海を渡ってやって来る。


Posted by グリーンワーク at 06:58 Comments( 0 ) 近未来小説

温暖化時計

2009年08月27日

「占い師は、壁の向こうにいる。」と、エコーが言った。

壁の前では、すべてが鎮魂歌に聞こえた。
壁は、磁石のように音を吸い寄せて、沈黙している。

壁は、一面に落書きされていた。
ダムハウスの間接照明の薄明かりの下で、
かすかに、『アーバンから、ルーラルへ。リャノから、シェラへ。』と読めた。

壁の向こうでは、今まで見えなかった真実が語られているのだろうか。
ぼくは、ぼく自身のあらゆる血管や、神経を通して、滅び行くものへの鎮魂歌を聞こうとした。

「何もない気がする。」
「何も残らないきがする。」
エコーだ。

「まず、自分の欲しいものから、壁に書きなさい。」

壁には、黒い花びらが一輪。
その声は壁の向こうから聞こえて来た。

「反響測定は、訓練すれば、人間も出来るのよ。」

彼女は、宙の声を聞くことができる。

「メロンのように、頭を柔らかくしなさい。」
人は種を蒔き、感情を育て、その実を食べる。



Posted by グリーンワーク at 22:14 Comments( 0 ) 近未来小説

温暖化時計

2009年08月24日

ダムハウスは、終夜営業でブルーズを売る店だ。
夜は暗くて、地下鉄の乗り場も探せないほどだったから、終夜営業が売りものになった。

灯火管制された町の中で、ダムハウスは石炭より熱いストレートブルーズと安い酒を売っていた。
ストレートブルーズは、喉が渇いた時のコップ一杯の水みたいな添加物のない音楽だ。

「キャノンに出会ったことはあるかい?」
「ない。」
グリーンワークが、2009年以来、キャノンとの対話を続けていることは知っていた。
「キャノンが変われば、日本も変わる。」とグリーンワーカは言っていた。

安い酒と、タフな音が身体を巡って行く。
就職活動で、ガーデンエタノールコミュニティを訪れてから、1年の間に様々な出来事があった。

「占い師のテーブルに行ってみないか?」と、エコーが言った。

道案内をしてくれた老人の姿はすでになく、
「バーカ」という木霊だけが、耳元に残っている。


Posted by グリーンワーク at 20:13 Comments( 0 ) 近未来小説

温暖化時計

2009年08月21日

政府与党による労働組合包囲網の中で、迷走状態が続いていた。
主流派の社会党系、非主流派の社会主義協会系、反主流派の共産党系の不協和音が強まり、中央委員会では、強硬路線が吹き出す中で、執行部は舵取りに追われていた。

どんな国策や、組織より、国民一人一人の命の方が重いはずなのに、全てを調べ上げて、国民には何も知らせないことが重要だった。
原因は、ほとんどの人に免疫力がないことや、エルニーニョだとされた。
温暖化の影響は、科学的根拠がないとして、国は解決には動かなかった。
こんな無謀な政策でも、一度動き出すと、誰も止められなかった。

いつか来た道と同じだ。

かつて、国は、「水俣病と水銀との因果関係はない。」とする熊本大学医学部教授の論文を支持した。
唯一の化学系財閥を2社に分割させるまでの猶予を持たせる国策だったと言われている。

「人間が増えすぎたから、減っていくだけ。」と、コメンテータがTVで言っている。
「環境に取り組んでいたら、企業は潰れる。」と、公務員が憐れんだ。
「環境活動家は、国賊だ。」と、ビジネスマンは言う。

街頭で、温暖化を訴えるビラ配りをしていた。
「どうせ人間一度は死ぬのや。」と、老人が言った。
「救済は、必要ないのですか?」と、ぼくは問い返した。
「悔しかったら、政治を変えろ。バーカ。」と、老人の寂しい訴えが宙に木霊した。

エコーだ。

「何もないような気がする。」
「何も残らない気がする。」

彼女は、宙の声を聞くことが出来た。



Posted by グリーンワーク at 20:08 Comments( 0 ) 近未来小説

温暖化時計

2009年08月16日

ゴン・アリューの仕事は、地球が本当につまらない場所になっていないことを確認することだった。

ゴン・アリューは、北上を続ける赤狗(ドール)を追跡していた。
ドールは、南方系の生き物だ。
犬の祖先に近いと考えられているが、北米起源の狼とは別の系統だ。

ゴン・アリューは、壁の向こうに氷河があることも、凍土に覆われた大陸のような大地のことも知っていた。
学生時代に、ゴン・アリューは、野生馬のレナ馬の調査をしたことがあった。

かつて、この森の王者は、クマだった。
クマは、もともと低山の生き物だ。
夏場は低山にいて、広葉樹林のモンゴリナラのドングリや、チョウセンゴヨウの堅果や、カラフトハナウドや、アイヌブキの茎などを餌にしている。
ダケカンバや、アカエゾマツの森を登り、壁には、コケモモや、クロマメノキくらいしか、餌がないが、今は、ドールに追われて、雪と氷が支配するオオシラビソの林で、命脈を保っている。

壁は、戦後一貫して、禁断の地として封鎖されて来た。

今、ゴン・アリューの仕事は、地球が、まだ、存在しているかを確かめることだ。

サイキは、世界が、まだ、存在しているかを確かめている。





Posted by グリーンワーク at 19:45 Comments( 0 ) 近未来小説