温暖化時計
2009年09月05日
「ボス、教えて。」と、アニータは社内食堂にいたリーダに自分の携帯電話を見せた。
若い職場リーダは、組合の委員でもあった。
彼は、黙ってアニータの携帯電話を操作して、インターネットで送信した。
2009年5月、政府は、日本の温室効果ガス削減中期目標を策定するため世論調査をインタネット投票で行った。
世論調査の結果は、45%の国民が、『90年比で7%削減』を支持する結果となったと、政府は発表した。
政府の世論調査に先立ち、経団連中心に、基幹労連、電力総連などが連名で、『90年比で4%増』を呼びかける意見広告を各全国紙に掲載していた。
政府の世論調査に投票した国民の多くは、この意見広告を出した社員や、動員された労組員だったと指摘されている。
その世論調査の結果を受け、麻生総理は、6月に『90年比で8%削減』の中期目標を発表した。
一年前の洞爺湖サミットで、世界に約束した長期目標の達成に程遠い中期目標だった。
若いリーダーは、黙って携帯電話を、アニータに返すと、食事を続けた。
「日本語わからないね。」
そう言うと、アニータはマリーアの待つテーブルに戻って行った。
アニータは、ちょっと難しい顔をして、すぐに陽気なラテン娘に戻った。
アニータも、マリーアも、リーダが携帯を操作したことの意味を理解していた。
3ヶ月後、総選挙で、与野党は逆転し、政権交代が実現した。
新政府は、『90年比で25%削減』の中期目標を立てている。
経団連御手洗会長は、「企業エゴではない。」と前置きしながらも、
「国際的な公平性、国民負担の妥当性、実現可能性が大事だ。目標を決めるなら、科学的根拠を提示し、国民的な議論をして欲しい。」と、新政府をけん制した。
結局、上位200事業所が、温室効果ガスの過半数を排出していることの事実を伏せ、企業責任を家庭の負担にすり替える従来の主張を繰り返した。
国民は人間の盾だろうか?
国民は情報を制限され、誘導されている。
経済産業省は、従来、「京都議定書締結時、当時の通産省と財界が交わした『産業に規制を強制をしない。』とする密約はない。」としてきたが、新政権発足で、「密約は今も有効だ。」とコメントを出した。
理由は、日本が産業立国であり、自由経済体制を維持すると、断言した。
しかし、財・官とも、2016年が近づいていることは、刷り込みずみだった。