グリーンワーク

「今日まで、生きていてくれて、ありがとう。」と、黒い羽根募金の婦人がハルミを抱きしめた。
「ここにたどり着けたのは、豊かさの結果だ。」と、紳士が呟いた。
ハルミは、その言葉の意味を知るより、失くした記憶を探そうと手探りをしていた。
「温暖化の一番の被害者はこの子たちなのね。」と、紳士のガールフレンドが囁いて、ハルミに手を差伸べた。
「一人で見る夢も、皆で見れば、希望になるのですね。」と、エコツアーガイドのラッキーが頷いて言った。

経団連の御手洗会長は、景気後退で、政府にさらなる財政援助を要請した。
財務大臣は、「経済なき財政なし。」としながらも、慎重な姿勢を崩さなかった。
御手洗会長も、政府のマニュフェストに対抗して、『CO2の２５％削減なら、生産拠点を海外移転』の姿勢を崩していない。
デンマークでCOP15が開催された翌日のニュースだ。

この溝を埋めるために、キャノンチルドレンは育てられた。
工場の海外移転と、ノアの方舟の回航で、取り残されたストリートチルドレンを、晴美は黒い羽根募金で育てた。
ハルミを新しい町・ノバフタに迎え入れて、晴美は氷が融けるように、胸の閊えが取れた。
「困難なことが、一番近道だった。」と、紳士。
「ペイフォワード、回向ですね。」と、ラッキーが続けた。

ハルミのモデルだったアマツバメの少女は、染色障害だった。
音の風景を巡る不思議な旅の物語がそこにあった。
野戦奉仕団に賭けた晴美はそこにどんな夢を見ていたのだろうか？